「ちょっと、トイレ行ってくるね」
 映画を見終わると、彼女はハンカチで顔を隠して、トイレに向かった。
 映画を見ている最中、隣からすすり泣く声が聞こえたから、恐らく彼女は泣いていたのだろう。
 確かに泣ける話だった。彼女だけでなく、周りにいた人も泣いていた。俺はそれほど涙もろいわけではないから、泣きはしなかったが、感動はした。
 トイレから戻ってきた彼女が、あるポスターの前でふと足を止めた。見ると、そのポスターは、今公開中のアニメ映画だった。
「朱音ちゃん?」
 俺が呼ぶと、彼女はハッと我に返ったように、俺に手を振って戻ってきた。
「ごめんごめん。化粧直すのに手間取っちゃった。ごはんでも食べに行こうか」
 彼女ヲタク疑惑。
「……どうしょう」
「何?」
「……何でもない」
 再浮上。