聞き慣れた声が、漆黒の夜にこだまする。
その声はいつも通りの、無愛想なものだった。
ホント、遅ぇよ、バカ。
ふざけたメイド、山田が歩み寄る。
いつものメイド服で、いつもの調子で。
山田真子は、まるで散歩でもしているような足取りで、こちらにゆっくり、歩み寄ってくる。
「いやー、大混乱に巻き込まれまして、超手間取りました」
緊迫感の欠片もない口調で、山田は言った。
「お嬢様がたが離してくんなかったんすよ。どうにか逃げ出してきたんすけどね」
歩み寄る山田に、黒の集団が後ずさる。
「嵐さんのせいでわたしは超迷惑こうむりましたよ。なのに本人はまたもや面倒に巻き込まれてるわけっすか。マジないわー」
これだから金持ちは。
山田は口癖のような言葉を付け加え、地面に刺さったそれに歩み寄る。
そうして柄を持ち、引き抜いた。
月明かりを受けて輝いているそれは、間違いなく、シルバーのフォークだった。
あの距離から。
この暗闇の中で。
黒と同化したあの拳銃を。
僅かに逸れることもなく、弾き飛ばしたのだ。
それも、ただのフォークで。
山田真子は、いともたやすく。
コイツが只者ではない、ということはすでに、黒の集団もわかっているだろう。
いや、そう思わざるを得ないのだ。
このメイドが、“ただのメイド”ではないことを。


