だからと言って、ここでじっとしていれば安全か、なんてことはまったくといっていいほどにありえない。

こんなところでじっとしていれば、安全どころか、かっこうの的だ。


じゃあ走り出すか、どうするか。

試しにジリリと、少しだけ前に歩いてみる。

背後の相手も同じ距離を詰めてきた。

この分だと、相手は俺がこの状況に気が付いているということを、すでに勘付いているらしい。

つまり、こちらが不意打ちで逃げ出す、または迎撃する、というのは無駄なあがきと言うわけだ。


めんどくさいことになった、と内心でため息をつく。

後付けになるが、こうなることがわかっていたから、パーティーなんてバカみたいな行事には、参加したくなかったんだ。

後悔してみたところでこの状況が変わるかと言えば、その可能性は1%すらないわけで。

こんなことなら、マジで宮埜のところに居座ってりゃよかった。


そう思ったところで、ふと思う。


そういやアイツ、今日も仕事だったよな。

ってことは、この状況も当然監視してるよな。

なのに誰も駆けつけては来ないし、それどころか緊迫感の方が上昇し始めているということは。


……アイツ、仕事サボってんじゃねーの。


あとで殴り込みに行ってやる。

それまでに俺が生きていればの話だけど。

内心でひとり、笑えないなと苦笑した、その直後。


――ざっ。


背後で足音が近づいた。

思わず振り向いた。それが仇となる。

振り向いた瞬間、後頭部に衝撃が走った。

しまった、と思ったときにはもう遅い。

ぐらり、視界が大きく揺らいだ。