外の空気は少し冷えていた。
会場の空気と相性が悪かった俺は、その空気に自然と息を吐いていた。
さて、出てきたものの、どうするか。
後から山田が追いかけて来るらしいので、勝手に帰るわけにもいかない。
むしろ山田を置いて帰る方ができそうになかった。
まあ、外を歩くのも、たまには悪くないか。
思いながら、空を見上げる。青空ではなく、夜空だ。
街やホールの明かりで星はあまり見えないが、それでも月だけはその存在を主張していた。
太陽の光を受け、漆黒の空に輝いている。
なんとなく、目を細めた。
誰の声も聞こえない。
がやがやと騒がしく、きらびやかな装飾を施したさっきの居場所と比べれば、今自分が立っている夜空の下の方が、かなり落ち着く場所だった。
金持ちの家の人間のくせに、なんて言われそうだなと思う。
俺だって思う。金持ちが、聞いて呆れる。
苦笑して、視線を月から外した。
立ち止まって辺りを見回すと、いつの間にかホールよりだいぶ離れた場所に立っていた。
気づかない内に歩きすぎていたらしい。
それにしても。
「……アイツ遅すぎだろ」
いつまで経っても山田は来ない。
また大理石に夢中にでもなっているんじゃねぇのか、あのバカは。
主を待たせるなんてそんな非常識なメイド、聞いたことも無い。
でも、それが山田なら許せてしまう。
苦笑を通り越して失笑だ。これはもはや病気だろ。