「あと、バカみたいに本と大理石が好きだ。いや、大理石の方が好きらしいけど。だから大理石に夢中になって、家の中で迷子になりやがる。で、これはどうでもいいけど、たぶんここに来るまでずっと、大理石と対話でもしてたんじゃないか、コイツは」
俺がそう言って山田を見ると、山田はすーっと視線を逸らした。どうやら図星だったようだ。
そうして俺が口を閉じれば、すぐさま女子生徒のひとりが反論を口にした。
「そ、それはどこにも、ひとつとしていいところがないんじゃありませんか!」
俺は内心で苦笑した。
「まあ、言われて見ればそうだな」
「では、だったらどうして解雇なさらないんです!」
否定しようとも思わない。
だって事実だ。山田にはいいところがひとつとしてない。
いいところ、なんてそれどころではなく、もはや迷惑極まりないほどだ。
ただ、それは“メイド”としての話だろ?
「どうして解雇しないのか?」
そんな質問は、ある意味無駄な問いかけだ。
「簡単な話で」俺は言った。「俺がコイツを好きだから。それだけのことだ」
ホールは静まり返った。
悲鳴すら上がらない。誰も瞬きすらしなかった。
そんな不気味な静寂の中、俺は山田に顔を向けた。
山田はトレイを持ったまま、おえーっと言いたそうな顔を浮かべている。
あぁ、うん、もうお前はそれでいいよ。
違った、それがいいよ。
「――山田」
呼びかける。山田はげんなりした表情で、俺を見上げた。
「あい、なんすか嵐さん、わたし今超吐きそうなんすよ」
「見ればわかる。っつーかわかりやすすぎる。」
「そりゃよかったっす。で、なんすか?」
「たぶんこれから面倒事になるし、なんだったら、一緒に会場抜け出すか?」
「えー……わたしまだ大理石とハグしてないんすよ」