そうして不機嫌顔のまま黙り込んだ俺に、宮埜は少し間を置いて。


「で、なんでそんなに不機嫌顔なんだ?」

「別に」

「また親父さんと喧嘩でも?」


俺はそれに答えなかった。

椅子に片足を載せ、その上に顎を置いて視線を逸らす。

宮埜の問いは図星だった。


発端はこの間、山田が見つけてきた本のことだ。

親父と話したくもなかったが、捨てられたはずの本がどうしてあるのか、気になる方が強かった。

だから、早朝に家を出て行く親父を呼び止め、俺は尋ねた。


『あんたが捨てたはずの本が、書庫にあったんだけど』


こちらに背を向け家を出て行こうとしていた親父は、その問いに振り返り、俺を見据えた。

見据えただけで、何も言わない。

これでは会話にならないと、俺は渋々、もう一度口を開いた。


『本は全部、捨てたんじゃなかったのかよ』

『…………』

『なんであんだよ』

『…………』

『なんとか言わねぇとわかんねぇだろ』


早朝だ。

俺は極力感情的にならないよう、静かな声で言葉を吐き続けた。

親父はしばらくその場に突っ立ったまま、揺らぎもしない視線でこちらを見つめ。

一言だけ発した。


『お前が捨てておきたいなら、捨てればいいだけのことだ』


俺はもはや何も言えなかった。いや、言う気になれなかった。

親父はそんな俺を一瞥し、音もなく背を向けると、そのまま家を出て行った。