へい、ほい、いかがっすか、と自分の足を叩いている山田に、俺は少し笑ってしまった。
こんなバカな方法で膝枕誘ってくるヤツなんか、たぶんどこを探しても、コイツくらいしか居ないだろう。
そんな変なヤツだけど、やっぱ好きなんだよなと、笑う。
「なに笑ってんすか。人がせっかく膝枕と言う夢のようなことをさせてあげようとしているというのに」と口を尖らせ始めた山田に近寄る。
今自分がすごい眠そうな顔をしていることは自覚していたので、なんとなく、山田の両目を右手で隠し。
ぶつくさ言ってアヒルになっている山田の唇を、少し、ほんの軽く、塞いだ。
あぁ、らしくないキスだ。
そっと離れて、目隠しをやめる。
山田は俺を見ていた。もうぶつくさも言っていない。
俺はそのまま力を抜くように、山田の足にぽすんと、頭を乗せた。
「……キスはオプションにないっすよ。有料っすよ」
「……はいはい」
また少し笑って受け答える。
山田はもうしばらくぶつくさ言いたそうだったが、自分の足に頭を乗せている俺を見下ろし、むうと唸った挙句、本を開いた。
その本は、俺が母親に読み聞かせていた、想いの詰まった本だった。
「途中で寝てもいいっすからね」
オマケ程度にそう言った山田に頷いて見せると、それが合図とでも言うように、山田は物語を言葉にし始めた。
穏やかな声だった。
ふ、っと。
息をつくような、やわらかな声。包み込むような感覚。
ずっと聴いて居たくなるような、心地のいい声。
――酷く、懐かしい気がした。