隣の彼女がメイドだったんだけど。





何を聞き間違えたと思ったのかって、山田の上から目線のことではない。

コイツが上から目線なのは日常茶飯事だ。

俺が聞き間違えだと思ったのは、山田の言った“読み聞かせ”の部分だった。


「……いや、なんでそうなる」

「小さい頃読み聞かせとかしてもらわなかったっすか?」


お母さんとかに。

そう尋ねられ、俺は視線を山田から、山田の抱えている本へと落とした。

読み聞かせは、数えきれないほどしてもらった。

体の弱かった母さんは、いつも「私にできることはこれくらいだものね」と笑って、何冊も本を読んでくれた。

昼も夜も。

心地のいい穏やかな声で紡がれる物語に、俺はいつも、意図せず眠ってしまっていた。

この年になってもまだ、あの朗読をもう少し聞いて居たかったなと思う俺は、バカだろうか。


そうして黙り込んだ俺の腕を、山田がもう一度引っ張った。

今度は強めだ。


「まあわたしお母さんじゃないっすけど、読み聞かせくらいできますし。おすし」

「……だからって別にしなくても」

「いいじゃないっすか。わたしもちょうど暇だったんすよ」


それどう考えてもお前がヒマだから読み聞かせしたいだけなんじゃないか。

というツッコミは、例の如く眠さとダルさに打ち負けた。

ツッコミだけでなく、俺の抵抗力すらも眠さとダルさには勝ち目がないようで、山田に引っ張られるがままに椅子から立ち上がり、結局読み聞かせしてもらう羽目になった。

高校生になってまで読み聞かせされるとは、考えたこともなかった、マジで。

むしろ山田くらいだろう。

高校生の、しかも年上の人間に読み聞かせしてやるとか言う、変なヤツ。