隣の彼女がメイドだったんだけど。






――いつまでも思い出にすがるな。


本を抱えていつまでも泣いていた俺に、親父はそう言った。

本棚に入れていた本も、俺が抱えていた本も、それだけじゃない。

母親との思い出の数々を、すべて取り去って行ったのは親父だった。


思い出にすがるな、前を向け。

後ろばかり振り向いていたら、それはお前の心を弱くする。


俺の方を一瞥もせずに、そう口にした親父の背中を、今でもまだ覚えている。

それは母さんが死んで、一週間にもならない夕暮れだった。ような気がする。



……そんな苦い、いや、もはや思い出したくもない記憶が残る本たちを。


もう一度部屋の本棚に並べる日が来るとは、思っても見なかった。


「ふうー。終了っすよー」


本棚の前に立って、山田が腰に手を当てる。

こいつのうざったさは尋常じゃない。さすがの俺も押し負ける程度には、うざい。

どんだけうざいのかって、俺の記憶で説明すると。


「これどうすんすか書庫はムリっすよ本でいっぱいっすよこれどこに置いとけばいいんすか廊下っすか廊下なんすかダメっすよわたしの大理石が泣きますよそんなことさせませんよでも本も捨てたくないっすよね捨てていいんすかダメっすよねそんなのわたしが許さないっすよ嵐さんこれどうすんすかこれ」


という具合だ。

聖徳太子すら目を回しそうなほど口の達者なメイドだ。マジで。


そもそも、山田に勝とうなんつー望みは、俺にはまったくないのかもしれない。

惚れた弱みってヤツ。


ムカつく。

まったくフェアじゃない。