まあ山田の非メイドっぷりは今に始まったことじゃないし、それはいいとして。


「……じゃあ、何の用で部屋の前に居たんだよ?」


尋ねると、山田は俺を見上げ、それから床を見下ろして答えた。


「これ運んでただけっすよ」


山田の視線につられて俺も床を見下ろす。

今の今まで気が付かなかったが、足元には山のような本がこれでもかというほどに散乱していた。

そういえば、山田がドアにぶつかったとき、何かが落ちるような音がしていたような気がしないこともない。

山田はしゃがんで本を片付け始める。


「書庫の整理してたんすよ」

「なんでまた今頃」

「だってあの書庫、長時間居るためには不便極まりないっすから」

「人ンちの書庫自室化してんじゃねぇよ。」

「ここの家の人が本読まないから、わたしが読んであげてるんすよ。あんなにあるのにもったいないじゃないっすか」

「誰も頼んでねぇしそれ以前になに責任転嫁しようとしてんだ。解雇すんぞ。」


「うわー職権乱用っすわー超理不尽っすわーないわー」とかなんとかほざいている山田は無視に限る。

しかし山田が片付けている本を見て、無意識の内に俺もしゃがみこんでいた。

山田の手から本をひょいと奪い取り、表紙を眺める。

それから、足元にいまだ散らばっている本を確認した。


「……これ」


俺が小さい頃に、読んでいた本だ。

それも、全部。


母親に読んでもらっていた本も、俺が母親に読んで聞かせた本も、全部あった。