ひとりで目覚めるのは久しぶりだった。
ここ最近は、いつも山田が朝から騒がしく起こしに来ていたからか、ひとりで目が覚めることに少しだけ違和感を覚えた。
だからだろうか、いや、だからだろう。
なんとなく、寂しいような。
「……んなわけあるか」
つぶやくように否定して、起き上がる。
山田が来る前はだいたいこんな感じだったんだ、寂しいとかありえない。
寝起きの頭をふるふると軽く振って、息をつく。前髪が目にかかるのが邪魔で、雑に掻き上げた。
別に俺は甘えただとか寂しがり屋だとかじゃないし、起きて早々なんでこんなセンチメンタルにならなきゃなんねーんだって話で、っつーか山田なんで起こしに来ねぇんだよふざけんな。仕事しろ。
ただでさえ寝起きは不機嫌極まりない俺は、山田のことを考えてさらに不機嫌絶好調。
また大理石の掃除に夢中になってんじゃねーのかアイツと内心愚痴りながら、だだっ広いベッドから降りる。
簡単に着替えてから部屋を横切り、ドアノブに手をかける。
それからノブを捻ってドアを開けると、がこんっばさばさっ!と賑やかな音が響いた。同時にドアが揺れる。
これが俗にいうナイスタイミングと言うヤツか、否か。
ジャストミートというにはちょっと違うか。どうでもいいけど。
とにかく、なにごとかとドアの向こうを覗けば、そこにはモップを片手に廊下で転がっている山田真子の姿があった。
どうやら俺が開けたドアにクリーンヒットしたらしい。バカかコイツ。
山田は額を押さえて「ふぬぉおお……」と意味の分からない呻き声を上げている。
その呻き声すらいつもの無表情無愛想な声色とそう変わらないところが、コイツらしいといえばそれまでだが。