「……山田」


ぼそり、つぶやく。

……いや、今は。


「はい?」と、僅かに屈んで耳を寄せるようにする山田に、もう一度。


「……真子」

「……なんすか、嵐さん」


柄にもなく。


なんて、いつもの調子で、けれどどこか穏やかな様子で。

そんな風な声色で返答をする山田に、俺は両手を伸ばした。

山田は避けない。体を引こうともしなかった。


きっとわかってんだ、コイツは。


それに甘えて、俺は彼女の細い首と背中に腕を回し、抱き寄せた。

どさり、と。

自然、かがみ込んでいた彼女は、俺の上に倒れ込む。

その華奢で小柄な体を、バカみたいに抱き締めた。

絶対に逃がすまいと。甘えたなガキみたいに。


「……ごめん」彼女の肩に顔をうずめて、俺は言った。「……ちょっと、好きにさせて」

「……いいっすよ」彼女は俺の耳元で、うなずいた。「好きにしといてください」



……あぁやっぱ、わかってんだ、コイツは。


それきり何も言わない彼女を、俺は離そうとしなかった。


一度だけ。

ほんの少し、彼女の小さな手が俺の頭を撫でた。

それだけなのに、酷く、泣きたくなった。