顔を近づけて言ってやった俺の一言で、山田はようやく仕事をヤル気になったようだ。
口を尖らせながらも「わかりましたよー」と渋々といった雰囲気で言う。
そのアヒルのような口にキスしてやりたい衝動を抑えて手を離す。
山田は本を閉じて立ち上がり、本をすぐ傍の本棚に戻すと着ているメイド服をはたいた。
掃除したばかりだろう、埃は落ちなかったが、癖なのかもしれない。
山田がメイド服をただしたのを見届け、俺も立ち上がる。
いつも思うが、山田真子は小さい。
俺が身長176くらいで山田をかなり見下ろすから、せいぜい140ちょいくらいなんじゃないかと思う。
そんなことを思いながら見下ろしていると、山田はこちらを見上げて怪訝な表情をした。
「なんすか。人のこと見下ろして楽しいっすか。そうっすか」
「違ぇーよ」
「見下す、の間違いっすか」
「かすってもねーから」
答えると、山田は「そうっすか」とどうでもいいような返事をして回れ右をする。
書庫を出ようとして、思い出したように壁に立てかけていたモップを手に取ると、「えーっと、玄関とこの大理石と廊下の絨毯ーっとー」とかなんとかつぶやきながら書庫を出て行った。
そのちっこい背中を見送って、俺は息をつく。
ふと山田が読んでいた本を見やると、タイトルは英語で、どう見ても洋書だった。
「……アイツホント意味わかんねぇ」
頭がいいのか、悪いのか。
ため息を吐いてから、明かりを消して書庫を出た。
帰って来て早々に疲労が溜まった俺は、自室に向かって足を進めた。
靴を手に持って。