本を持って母さんに歩み寄り、ベッドに無遠慮に飛び乗って座る。
そうして母の腕の中で、下手くそな朗読をして見せた。
難しい字が読めたら、母さんは「すごい」と褒めてくれたし、物語が進んでいくにつれて、「うんうん」だとか「そうなの?」だとか、些細なことに反応を返してくれた。
それがとても嬉しくて、この次はもっと難しい字を読めるようになって、もっと面白い本を、母さんに読んであげようと意気込んだ。
「……ねえ、嵐」
母さんが不意に、静かな声で口を開いたのは、そんなときだった。
「なあに、母さん」
俺は母の腕の中で、母の顔を見上げながら返事をする。
広い部屋は両親の寝室で、その時時刻は、午後6時くらいを示していた。
レースのカーテン越しに射し込んでくる夕日。
その茜色に染まった母さんの横顔。
その時の母さんの表情を、今になっても俺は、鮮明に覚えている。
「……母さん?」
不思議に思って母を呼ぶ。
母さんは何事もなかったように俺を見て、優しく微笑んだ。
かと思えば、にんまり笑うような顔になり、「らんーっ」なんて言いながら、俺をぎゅうと抱き締めた。
わけもわからずされるがままの俺に、母さんは微かに、こう言った。
「……嵐、」
――幸せに、生きていくのよ。


