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「……らん」
穏やかな声で、名前を呼ばれた。
静かで、優しくて、安心感のある声だ。
「嵐、こちらを向いて?」
言われた通りに振り返る。
ベッドの上、上半身を起こして座る母さんが、微笑みながら俺を見つめていた。
床に座ったまま本を読んでいた俺は、顔だけを母に向け、口を開く。
「なに?」
尋ねると、母さんは右手をこちらに差し出し、答えた。
「そのご本、お母さんが読んであげようか?」
「えー、いいよ。おれ自分で読めるもん」
「あら、もう難しい字が読めるようになったの?」
「うん。もう絵本読んでないよ」
「さては嵐、お隣のお友達に、難しい字を教えてもらったな?」
うふふ、といたずらっ子のように笑う母に、俺はムキになって「違うもん!」と怒った。
そんな俺を見て、母さんは楽しそうな笑顔を浮かべた。
ひとしきり笑った後、母さんは細い両手をこちらに伸ばし、穏やかな表情で。
「嵐、こっちへおいで」
「だから、本は自分で読めるってば!」
「うん。だからね、そのご本、お母さんに読んで聞かせてくれる?」
「え、おれが母さんに読んであげるの?」
「そう。ちょうど、お母さんもそのご本、読んでみたいと思ってたの」
ね?
と、小首をかしげる母に、俺はうれしくなって立ち上がった。


