だけど言わない。
言ったところで、コイツが賛成するとも思えない。
俺は久宮家の跡継ぎで、アイツはうちのメイド。
この関係性だけで、答えなど聞くまでもないだろう。
親父は俺から目を逸らさない。
俺は絶対に目を合わせない。
「……そうか…」
ぼそっと。
独り言のようにつぶやかれた言葉に、俺は意図せず親父を向いた。
視線がぶつかった。
「居ないようだな」
「……なにがだ」
「共に進もうとしてる人が」
「言ったところであんたは聞くのか」
「どうだろうな。聞かないかもしれない」
組んだ手の向こう。
無機質にも見える瞳が、微々たる揺らぎも見せずに告げる。
「すでに婚約の話は、ついているからな」
――ガタンッ!
けたたましい音が室内に響き渡った。
椅子が後ろ向きに倒れる。
テーブルまでもが激しく揺れ、今度こそコーヒーは、テーブルクロスに飛び散った。


