隣の彼女がメイドだったんだけど。





コーヒーから上がっていた湯気は、いつの間にか落ち着いている。

冷えてしまったわけではないだろうが、それでも直に、こちらを見据えた親父と目が合った。


「では、この話も足蹴にされてしまいそうだが」

「話……?」


眉根を寄せ、親父の言葉を復唱する。

今まで、帰って来てはすぐに出て行く形しかとっていなかった親父が、今日は珍しくテーブルにつき、コーヒーを飲んでいる。

いつもと違う様子に、何かあるとは思っていたが。


「なんの話だよ」


ロクな話しではないだろう。

どうせこの親父が言うことは、基本的に、俺にとってはロクでもないのだ。

しかし尋ねる。

なんの話もされずにそのまま事を進められれば、それこそもっとロクでもない。


親父は両手の指を交差させ、テーブルに肘をついた。

家族の食卓なんていう雰囲気は皆無だ。

今ここは、そうだ、言うなれば。

ロクでもない提案を聞かせようとする社長が居座る、そんな重苦しい部屋のような。



「……お前の婚約についての話だ」



――あぁほらやっぱり、ロクでもないのだ。



「……なんだ、それ」


辛うじて言えた一言は、自分でも笑えるくらいに震えた、小さな声だった。


この震えが、呆れから来るものなのか、怒りから来るものなのか。

それはもはや、俺自身にすらわからなかった。