親父がコーヒーのカップを持ち上げる。
少しすすって、カチャリとソーサーに戻した。
「学校はどうだ」
「…………」
「今年で17だったな」
「…………」
「勉強はしてるか?」
「…………」
何も答えない。
口を一様に閉じたまま、コーヒーの湯気越しに、俺は親父を見据えた。
空気がやたらと、重い。
従者は皆、この場から離れていた。
久宮家のトップであるこの親父は、そこに居るだけで威圧感があるような人間だ。
表情も変わらず、優しげの欠片もない喋り方。
言いようのない雰囲気と威厳に、会う者は自然、腰が引けてしまうらしかった。
それでも俺は口を開かない。
コイツは確かに、久宮家のトップだ。
が、俺の前ではただの最低な父親でしかない。
ほとんど家に帰って来ない、自分の子供の現状も把握できてない、家族の前でさえ笑えないような、冷めた父親だ。
もはや父親だとも認めたくはないような、そんな人間だった。
「……何も答えない、か」
親父はコーヒーをすすった。
そのカップがソーサーに置かれる直前に、俺はようやく、言葉を発した。