最後に顔を合わせたのはいつだったか。
もうそれすらロクに覚えていない。
覚えていたところで、久しぶりだと挨拶することには変わりない。
実際、この親父とは、久しく顔を合わせていなかった。
「本当に久しぶりだな、嵐」
食堂のテーブルを挟んだ向かい側で、親父はもう一度そう言った。
実の父親が実の息子に、2度も“久しぶりだな”と言うような家庭。
昔からこうだった。
だから異常だとは思わないが、しかし普通だとも思わない。
俺は椅子の背もたれに寄り掛かり、テーブルを一心に見つめた。
「……そうだな」
久しぶりに親父と会話した俺の第一声は、それだった。
コイツと和やかに会話をするような柄でもない。
しようとも思わない。
数カ月ぶりか、もしくは数年振りか。
それくらい家庭に帰って来なかった親父に、喜びなんて感情はとうてい湧いてこないし、むしろ、憎悪。嫌悪。それよりも呆れか。
とにかく喜びとは正反対の、そんな感情しか生まれては来なかった。
「前に会ったのはいつだったか……背が伸びたんじゃないのか?」
親父は笑いもせずに問いかける。
昔から表情の乏しい人間だったが、歳を取ると同時に、その乏しさに拍車がかかっているような気さえした。
俺は何も答えない。
最後に会ったのがいつ以来なのかもわからないくせに、背が伸びたなんてよくも言えたもんだな。
メイドがコーヒーを運んでくる。
テーブルに、ご丁寧に置かれたコーヒーから湯気が湧きたち、向かいに居る人物の顔をぼんやりとさせた。