+++++
雨音が響いている。
門の前に敷かれたアスファルトに、雨粒が跳ね返って消える。
時は動いている。
きちんと刻まれている。
それなのに俺は、立ち止まったまま動けないでいた。
「……嵐さん?」
隣で同じように立ち止まり、山田が声をかけてくる。
少しばかり、心配したような声色だ。
山田にしては珍しい声。
それでも俺は、動けないでいる。
門の前に居る人物を、一直線に射抜いた視線が、逸らせない。
「……あの人」
山田がその人物を見て、ぼそりとつぶやいた。
俺はそのつぶやきを聞きながら、けれど視線は、逸らせない。
「……あぁ」
俺の視線に気が付いたのか、門の前に佇んでいた人物が、こちらを向いて、口を開いた。
無機質に思えるその視線に、今度は俺が射抜かれた。
「……久しぶりだな、嵐」
雨音にかき消されない、よく通る低い声で、そいつは言った。
それが親父の第一声か、と。
ため息すら、出なかった。