山田がげんなりと肩を落とす。
コイツはわかってないらしい。
お前にキスをするときに、俺がどんだけ腰をかがめているのかを。
横目に山田を見下ろす。
その頭のてっぺんは、かなり眼下のほうにある。
山田はマジで背が低い。
ちっこいクセに、家中を掃除してまわり、庭の手入れもしてしまう。
オマケに態度はデカイし口は悪いし。
今とか隣を歩いているっつーのに、「傘持ちましょうか」とか一言も言わないわけだ。
コイツほんとにメイドかよ、とつくづく思う。
それでも俺はハマってんだから、おかしな話だ。
「あーあ。嵐さんのせいでアレっすよ、超遅くなったじゃないっすか」
「俺のせいかよ」
「どう考えても嵐さんのせいっすよ。まったく、わたしもアレっすね。路上でハレンチなことをする変態さんに駆け寄ってきた自分が情けないっすよ」
「お前はマジで俺に喧嘩売ってんのか。」
「本心を言っただけっすよ」
「傘から出ろ。一刻も早く。」
完全な命令形にしたにも関わらず、このメイドは「えーヤダっすよー」とか言いながら傘の中に居座っている。
度胸があるとか肝が据わってるとか、たぶんコイツはそれ以上だ。
「今日の晩ごはん何がいいっすかね」
「なんでもいい」
「またそれっすかー」
「お前も同じ質問してんだろ」
「毎日ごはんの献立を考えるの大変なんすよ」
「毎日聞かれる方も大変だけどな」
言いながら、ちょっと笑う。
なんとなく、家族っぽい。