ただでさえ走ってきて崩れていた髪型が、そのせいでさらに酷くなる。
山田が「やめてくださいよー」とか言いながら、頭をフルフルと振って、俺の手から逃れようと抵抗した。
濡れて束になった山田の髪の毛から、雫が伝って頬を流れる。
その雫が、彼女の唇を掠めて落ちた。
無意識か意図的か。
自分でもそれを理解する前に、山田の頭を掴んだまま引き寄せていた。
彼女の唇を塞ぐ。もちろん自分の唇で、だ。
優しくはない。奪うようなキス。
手に持った傘は隠すように、低く。
雨の雫が伝った彼女の唇は、しっとりと濡れていた。
……物足りない。
唇の隙間を強引に割って入った。
後頭部に回していた手、その頭が分からない程度に揺らいだ。
それでも、まだ。
彼女は微かに声を漏らす。
その声を飲み込んでから、ゆっくりと離れた。
至近距離で見つめ合う。
山田は息を吸って、吐いた。
「……またっすか」
初日の時と同じような、呆れた口調で山田は言った。
初日と違うのは、華奢な肩が少しだけ上下していることだった。
「……言っとくけど、全然足んねぇから」
瞳を見つめて、囁く。
山田がうちに来たその日よりもっと、俺は貪欲になっている。


