隣の彼女がメイドだったんだけど。





「……山田」


声をかける。

雨音にかき消されたかと思ったが、けれど山田は「む?」というような口をして顔を、一直線にこちらを見据えた。

そうしてパチクリと瞬きをしたかと思うと、今までよりも早い速度で、俺に向かって走ってきた。

ちっこいメイドが走る姿に、通行人が驚いたような目をして振り返る。

それからメイドが走って向かっている先に居る俺には、さらに驚愕したような顔を浮かべた。

まあたしかに、いろんな人が歩いている中で、立ち止まっている俺は不審だったかもしれないが。

あぁそれか、金持ち学校の制服着たヤツが雨の中でひとり突っ立っていることが珍しかったか。

しかし山田はそんなことお構いなしという風に、なんの迷いもなく俺へと駆け寄ってくる。

もはや体当たりされる勢いだ。

もしそうだとしたら、そうなる前に、抱き留めるけど。


「嵐さんっ」


息を切らしながら、いやそんなに切らしてもないが、いつもよりは早いペースで呼吸をしながら、山田は俺の名前を呼んだ。


あーやっぱ、体当たりされようがされまいが、死ぬほど抱きしめてやりてぇ。



「……真子」


ひっそりと名前を呼んだ。

今度は雨音にかき消されたようだった。


山田は雨の降る世界から、こちらへと軽快に飛び込んだ。


「……っふぃー」


ヤツは傘の中に入ると、脱力するように顎を突き出し、盛大なため息なのか深呼吸なのか、とにかくそういう息を吐いた。