それを掴んで受け取ると、車のドアノブを引っ張る。
さっきまで遠いように感じていた雨音が、隙間から聞こえてきて一気に距離を縮めたような気がした。
近くなった雨音を聞きながら、少し考えて、言う。
「……気まぐれにつき合わせて悪い」
ドアを開けて傘をさす。
車から降りてドアを閉める直前、「お気をつけて」と、運転手の声が背中にぶつかった。
意表をつかれたような声だった。
バンッと閉めたドア。
車はそのまま歩道を離れ、車道を走って行った。
なんつーかな。
やっぱちょっと、おかしい。
さした傘に雨粒がぶつかって弾ける。
自分で傘をさすなんてことは年に一度あるかないかくらいで、俺は無意識に傘を見上げていた。
均等な骨組みに張られた特殊な生地が、雨を弾いている様子が透けて見える。
その雨粒は重力に従って、アスファルトに落下した。
……ガキか。
内心で苦笑を漏らし、顔を上げて歩道を見渡した。
今通ってきた道の向こうの方。
街中で目立つメイド服が、こちらに向かって走ってきている姿が見て取れた。
正確には、こちらというより、ウチに向かって走ってるんだろうけど。
っつーか街中でもメイド服かよアイツ。
どんだけ仕事大好きなんだ。


