『メイドの朝は忙しいんすよ』
山田の言葉が脳裏を過る。
同時に、庭で眠っていた山田の姿も。
アイツに会う前なら、たぶん、いや絶対、こんなことは気にも留めなかった。
「――あ」
思わず声を上げた。
窓の外に、見慣れた姿があったからだ。
おさげの頭にメイド服、ツンとした横顔の見慣れたちびっこが。
「車止めろっ」
考えるより早く、言葉が口を突いて出た。
一瞬驚いたような運転手は、けれどしっかりとハンドルを切って、歩道に車を寄せる。
「どうされました?」運転手が振り返って問いかける。
「ちょっと。それより傘あるか?」
「傘ですか?え、外を歩くおつもりですか!」
「いいから」
「ですが……」
「今日はヤケに食い下がるな。何かあるのかよ」
怪訝な表情を浮かべてみせる。
運転手は黙り込んだ。
俺は息をつき、右手を差し出した。
「俺は別にロボットじゃねぇ、気まぐれくらい起こす。たまには歩かせろ」
言い切って、見据える。
運転手は渋々と言った様子で傘を取出し、差し出した右手へとご丁寧に載せた。


