「……なんすかー」


顔も上げず、心底興味ないと言いたげな反応が。

イラッと来た。イラッと来ない方がおかしい。

俺は入り口から離れ、山田真子の方へ向かうと、目の前でしゃがみ込み、床で読みふけっているその本の上にバンッ!と右手を置いた。

ようやく山田はこちらを向いた。

それも不服そうな顔で。


「えーちょっとなにすんすか嵐(らん)さん。わたし今これ読んでるとこなんすけど」

「見ればわかる」

「じゃあなんで邪魔すんすか」

「お前よくそんなことが言えんなおい」

「仕事終わらせましたもん」

「どこがだ。言ってみろ」

「えーっと、まず料理作って、窓拭いて、家の中掃除して、庭の手入れして、大理石を全力で磨きましたね」

「最後だけ繰り返せ」

「大理石全力で磨きましたね」

「全力すぎんだよお前は!」


バンッ!ともう一度本を叩くと、山田から非難の目を浴びた。

よくもまあそんな目ができんなお前ってヤツは。


「ちょっと嵐さんマジ何考えてんすか本に八つ当たりとかうっわー信じらんねーっすよ」

「信じらんねーのはお前だよ山田」

「嵐さんに言われたくねーっすよ」

「大理石を磨きすぎんのはやめろってこの間俺言ったよな?」

「……え、なんのことっすか。聞こえなかったっすね」

「毎回毎回ホント都合のいい耳だよな」


言いながら山田の片耳を掴んで引っ張る。

軽く引っ張っただけだが、山田は「暴力反対っすよー」と口を尖らせた。コイツホントどうしてくれよう。