「……いい気なもんだな、メイドのクセに」


ぼそり、つぶやく。

山田はそれでも起きなかった。

そりゃそうだ。

主が必死こいて走ってきたにもかかわらず、ぐっすり爆睡状態なんだし。


またため息が出る。

走ってきたために、じんわりと汗がにじんでいた。


……そういえば、走ったのなんて久しぶりだな。


昔はよく、走り回っていたような気がする。

当時は隣の家の子供も居て、家に親が居らずとも、そこまで寂しい思いをすることも無かった。

懐かしい記憶だ。


夕方の風が吹いてくる。少しだけ肌寒い。

チラリ、横目に山田を見下ろした。

なんの反応もないが、まあ、いいか。

そう思ってから上着を脱ぎ、山田の上にバサッと、テキトーに掛けてやる。


起きた時に暑いとか言われても知らねぇ。

寒そうだと思ったから、わざわざ掛けてやったんだ。感謝しろ。


内心でぼやく。膝の上に頬杖をついた。

ムリに起こそうとも思わなかった。普通ならすぐにでも起こし、仕事中になに寝てんだって怒る場面だろう。

けどたぶん、山田は眠かったんだと思う。

何時に起きてるか知らねーけど。


弁当のお礼は、言うべきだろうか、言わないべきだろうか。

美味かった、なんて感想を言えば、コイツは調子に乗るから困る。


さてどうするか。


穏やかな庭の一角。すやすやと眠る山田の傍で。

俺は柄にもなく、そんなことを考えていた。