一番上まで上ってから、俺は一度振り向きメイドを見下ろした。


「そういえば、今日の仕事、もう終わったのか」

「え!…っと…」メイドは慌ててこちらを見上げ、戸惑った。「終わったと言いますか…山田さんがひとりで終わらせてしまいまして…」


やっぱりか。


「……わかった」

「も、申し訳ありません!山田さんひとりに任せてしまって…!」

「いいや、あんた等はちゃんとやってる。気にしなくていい」


問題はアイツだ。

どこのどいつが家の者である俺に靴持たせて廊下歩かせていいっつったよ。誰も言ってねーだろ。むしろ論外だ。

俺は靴を持ったまま廊下を突き進む。いつもは絨毯が敷かれているこの廊下も、今は大理石がむき出しの状態だ。

いつもこれだ。

掃除をしたらしっぱなしだよ。

歯ぎしりでもしたい衝動に駆られながら、俺は家の一番奥にある書庫へと向かう。

すべての仕事が終わった後にアイツが行きそうな場所と言ったら、ここしかない。


ガチャッ。


書庫の扉を開ける。薄暗い書庫には電気がついていた。

その電気の下で、床に座り込んで本を読みふけっているちっこい人影が、ひとつ。


「……おい」


入り口に立ったまま声をかける。反応なし。


「山田」


無視。


「……山田真子!」


フルネームを呼ぶと、ようやく反応があった。