うちには基本、親が居ない。

いない、というより、帰って来ない。

母親が居れば、なにか違ったのかもしれない。なんてたまに思う。

母親は、俺がまだガキの頃に亡くなった。

だから俺は、母親のことをあまり詳しく覚えていない。


そんな家だから、家族というものをよく知らない。

学校から帰ってくれば、いつも「おかえりなさい」と言うのは従者で、一度として母親や父親から「おかえり」を言われたことはない。

逆も同じだ。俺が両親に「おかえり」を言ったこともない。

母親はもう居ないから、それは当然のことだ。

稀に親父が帰ってくるのは深夜で、だだっ広い部屋の、無駄にデカイベッドに潜って、俺はいつもその足音を聞いていた。

起きて行くと怒るから。

「早く寝なさい」と言われるから、俺は絶対に起きて行かなかった。

ガキながらに反抗していたんだと今では思う。

まったく帰って来ないくせに、たまに帰ってきたときだけ父親面すんじゃねーよ。なんてそんな反抗。

そうして出て行くのも、その夜の内だった。


だから俺は昔から、「おやすみなさい」を言ったことがない。

「おはよう」も、言ったことがなかった。


そんな生活が、これからも続くんだろうと思っていた。

コイツが来るまでは。





「おーはよーうございまーす」


間延びした覇気のない声が部屋中に響き渡る。

それと同時にカーテンが開け放たれる。

朝の光とメイドの声で、俺は否応なく目覚めさせられる、ここ数日のお決まりパターン。