「……またかよ」
玄関を開けて開口一番、俺は無意識の内にそうつぶやいていた。
だだっ広いロビーのような場所は、開け放たれた玄関や窓からの光でキラキラと輝いている。
大理石の床が、眩しいくらいに磨かれているわけだ。
パッと見の印象はとてもいいだろう。綺麗なことこの上ない。
しかしそれは見た目だけだ。
周りにとっては迷惑なことこの上ない。
特に学校帰り、しかもローファーを履いている俺にとっては、史上最強なまでに、迷惑だ。
「おい」階段から降りようとして躊躇しているメイドに俺は声をかける。「そこのメイド」
「……あ、はい、なんでしょう」メイドは階段を下りるのをやめ、こちらを向いた。
こちらに歩いてきたいようだが、どうにも降りる勇気が出ないらしくオロオロしている。
俺は右手を上げて軽く振った。
「あーいい。わかってる。降りなくていい、そこからでいい」
「す、すみません……」
「これやったヤツ、間違いなくアイツでいいよな」
「え、アイツ、とおっしゃいますと……」
「山田でいいよな」
「……えぇ、はい、その通りで…」
「わかった」
メイドの言葉を遮ってそう言うと、俺は片足を上げて靴を脱いだ。
両方脱いでしまうと、靴下も脱ぐ。
簡単に言って、裸足になった。
アイツのせいでわざわざ裸足にならなければロクに歩けない床になっている。
一度失態を晒すことになった俺の身にもなってみろ。そのおかげで学習はしたが、前代未聞の学習だったよチクショウが。
などと思いつつ、靴と靴下を持ったまま、光り輝く床に踏み入る。
いまだに床まで下りられていないメイドの横を通り、階段を上がって行く。