「こっちのがもっと美味い」
山田は眉根を寄せる。
「……欠片が美味いとか庶民超越して放浪者じゃないっすか」
「黙れ。」
「金持ちの思考ってマジわかんねっすわー」
「お前の思考の方がわからねぇよ。」
山田の頭を鷲掴みにしてぐるぐる回す。
コイツのせいでここ最近俺ツッコミ役だったんだなっつーどうでもいいことに気付かされてきたけど漫才やるつもりねぇから。
山田はせんべいをバリバリ食いながら「その頭掴むのやめてもらえますかねー」と、ずいぶん白けた視線でこちらを見上げている。
コイツは“照れる・恥ずかしがる・驚く”などなどの感情を母親の腹ン中に忘れてきたんじゃねぇかとマジで思う。っつーかそうだとしか思えない。
でなけりゃせんべい食いながら「マジ離してくんないっすかね掃除できねーんすよ」とか言えるわけがねぇ。
少なくとも、俺が顔を近づけて山田が食ってるせんべいの反対側を咥えたこの状況で。
「ん」
バリッ。
残り少ないせんべいを、半分割って持っていく。
唇が微かに触れた。
「……うわーなにすんすかマジでー」
山田は少なくなった残り半分をもぐもぐしながら、げんなりした表情を浮かべる。
どうやら唇が触れたことに気が付いたらしい。
「美味そうだったからつい」
「人のせんべい食ったうえにチューすんすかマジっすか信じられねーっすよ」
“チュー”と発音した時の山田に心底噛み付いてやりたかった。
ホントクセになる。コイツは自分がどれだけ可愛いか、ということを知らないからこんだけ無防備なのだ。


