隣の彼女がメイドだったんだけど。





そんなこと言った覚えはねぇ、と言いかけて思い出した。

さっき、と言っても数時間前になるが、書庫で親父と話していた内容か。

いつだったか、親父から突然婚約だとかなんだとかの話を持ち出され、俺がキレたときの話をしていた時だ。

あの話は……これもまあなんつーかアホみたいな話なんだけど、クソ親父のいたずらだった。


『お前に今、想っている人が居るかどうか、ちょっと知りたかったんだ』


そう言って笑った親父に、俺は呆れ通り越して失笑した。

とことん不器用な親父だなと思った。

そういえばあの時はきちんと言わなかったな、と思い出して、笑っている親父に言ってやったのだ。


『コイツ。この山田とかいうふざけたメイドが、今は誰よりも大事だ』


隣に座っていた山田を指さしながら。

対する山田は『ふざけたメイドってなんすか。解せねっすわ』とか愚痴って居たけど、限りなく無視した。

昔ならともかく、現在メイドとして勉強している山田だ、反対されるかとも思っていたが、親父の反応は、


『……そうか。それは何より、安心した』


とても嬉しそうなものだった。



で、山田はそのことを言っているらしい。

格差社会云々よりお前の態度の問題だよ、とツッコミ入れてやりたかった。

しかしまあ、いつも通りでもいいけど、そのいつも通りの雰囲気を、打破してみるのも、面白いかもしれない。

なんて思って、俺は言う。


「好きなヤツほど、いじめてみたくなるんだよ」

「うわー小学生っすか。ないわー」

「なんとでも言え」


ベッド脇に立ち、山田を見下ろす。

山田も俺を見上げていた。


「……こっちはいい加減、お前落とすのに必死なんだけど」