隣の彼女がメイドだったんだけど。





そういえば昨日のこの時間も、動けないでいたな、とぼんやり思う。

その動けなくした相手は、黒の集団じゃなくて、山田なんだけど。


「……嵐さんはずっと、気づこうとしなかったみたいですけど」


山田の穏やかな声が、書庫に響く。


「嵐さんのお父さんは、何よりも誰よりも、嵐さんのことが一番大切なんすよ」


そんなわけない。


噛み締めるように、言い返す。

覇気も説得力も、何もない声だった。

山田はゆっくりと、首を振って見せた。

まるで、ダダをこねる子供に、優しく言い聞かせるような、そんな雰囲気で。


「お母さんが亡くなった時、嵐さんはもちろん悲しかったはずです。でもそれは、お父さんも同じだったんすよ」

「……母さんのもの全部捨てて、涙ひとつ見せなかったアイツが?…ありえねぇよ」

「強がりだって、思ったことはなかったんすか?」

「…………え?」

「その、お父さんの行動が、強がりだとは、思わなかったんすか。今も」

「…………っ」

「お母さんが亡くなって、自分がひとりで嵐さんを護らなきゃならない、自分が弱っていては、嵐さんを不安にさせてしまう。お父さんは、そう思ってたんすよ」

「…………っ」

「だから、自分も思い出してしまうお母さんの遺品を片付けて、涙も見せずに働いたんすよ。――嵐さん」


ホントは、わかってて、わからないふり、してたんじゃないんすか。




山田の問いかけに、俺は答えなかった。

足に力が入らなくなり、膝から崩れ落ちそうになる。

それを山田の両手が受け止め、ずるずると二人、床に座り込んだ。


俺は項垂れたまま、彼女の胸元に頭を預けた。

彼女の手が、優しく、ゆっくりと、俺の頭を一度、撫でた。