確かに、山田がうちに配属されてきたその日に、宮埜が言った通りの出来事があった。
だから昨日、書庫で俺が「キスすんぞ」っつったら山田は「マジ勘弁」と答えたのだ。
山田は一度目のキスの後に心底げんなりした表情で、
『うわー…リアルにそういうことしちゃうんすか。うわー引くわー』
とか言ったようなヤツだ。
早々簡単に落ちるような女ではない。むしろクセが強すぎてめんどくせぇ。
なのに諦められないのは、たぶん俺は今までこういう経験がなかったからゲーム感覚なのと、引きようがないくらい山田真子にハマっているという理由。
クセが強い分、中毒性があるんだよ、アイツ。
「ま、わからなくもないな」
宮埜は自分の方へと戻したパソコン画面から視線を外さないまま、コーヒーをすする。
インスタントコーヒーの安っぽい匂いが部屋に充満していた。
「あの子何気に可愛いもんね。童顔だけど、ちょっと気の強そうな目とか、久宮の俺様自己中心Sっ気性質に響くわけだ」
「宮埜、もしかして喧嘩売ってんのか。」
「まさかー。でも事実、ちょっとイジメてみたくなるだろ」
「ほぼ無意識」
「性質(たち)悪いなお前」
「金持ちだからな」
「俺は庶民でよかったよ」
大袈裟に肩を竦めて見せる宮埜に軽く蹴りを入れ、椅子から立ち上がる。
もうすぐ2限目が終わるころだ。
長居しすぎると管理棟に目がつけられるかもしれない。
居心地のいい隠れ家をなくすのは惜しいわけで、しかたなく扉を開ける。
それを狙ったかのごとく、扉を開けるのと同時に「そういえば」と宮埜の声が引き留めた。


