「……嵐さんは考えすぎっすよ」
ぼそり、前から声がした。
顔を上げる、けれど声の主である山田は、こちらを向いてはいなかった。
「おー、着いた着いた、ここっすよ嵐さん」
さきほどのつぶやきなどなかったとでも言うように、山田は右手を持ち上げ、指をさし、弾んだ声を上げた。
立ち止まってこちらを振り向いた山田に、俺も立ち止まり、山田の指先を辿って視線を上へと持ち上げる。
そこにあったのは。
「……時計台?」
書庫になっている、あの時計台だった。
夜空にそびえる時計台は、しかしイギリスのようにライトアップはされていなかった。
金持ち学校でも、さすがにそこまではしないらしい。
で、ここのどこに天文台があるというのか。
俺がそんな疑問を持ち始めたことに気が付いているのかいないのか、山田は俺の手を掴んで引っ張った。
すでに借りてきているという鍵を持って、山田はでかい扉に歩み寄る。
がちゃり、と金属の擦れる音が響き、鍵が開いた。
山田がドアノブを握って引っ張る。
重そうだったので上から手を伸ばし、それを手伝った。
ギィ……と古めかしい音と共に、扉がゆっくりと開く。
そうして見えてきた時計台の中には、所狭しと並べられた本棚が、上の方へと延びていた。
「……いつ見てもファンタジーな書庫だな」
「そこがいいんすよ、超絶いいんすよ」
「絵本の読みすぎだろ」
「嵐さんに言われたくないっすよ」
まあそれもそうか、と納得してしまった。