隣の彼女がメイドだったんだけど。





常に鍵がかかっていて、調べ物があると許可書をもらい、管理人に鍵を借りないと入れない書庫が、その日は開いていた。

昼休みで、学校内に居ると女子生徒が集まってきて休み時間などあったものではない。

だから人気のない場所を探していた時だった。

鍵の開いている書庫に何気なく立ち入ると、壁一面の本棚、その隅っこに座り込んだ小さな人影を見つけた。

それは本を一心不乱に読んでいる、山田真子だった。

当時はヤツの名前など知らなかったわけで、とりあえず女子生徒がひとり居るくらいにしか思わなかった。

が、その女子生徒が本校の生徒でないことは、ヤツの着ていた学校指定のメイド服で理解できた。

ヤツはこちらに気付く風もなく、ずっと本を読んでいた。


なんとなく。

なんとなく、その姿が気になった。


しばらく見ていたいような気分になって、すぐ傍にあった梯子に腰掛けた記憶がある。

静かな空間だった。

上の方から入ってくる淡い光が、彼女の横顔を微かに浮かび上がらせていた。

その横顔が、妙に記憶に焼き付いて離れなかった。


そうなると後は、言わなくてもわかるだろう。



「……気になる存在からいつの間にか好きになってたとか…久宮、お前には似合わない」

「笑ってんじゃねぇよ。」

「でも家に配属されてきた山田ちゃんに告ってないがしろにされたのはもっとお前らしくない」

「……宮埜、お前マジで性格悪いな。」

「今まで女の子に困ったことなかったくせにねー」

「引きこもりは黙ってろよ。」

「いや、しかしその後にムリヤリキスしちゃって?絶対落とす宣言しちゃった久宮はどこの少女漫画のヒーローなわけ?」


やっぱコイツに話すんじゃなかったと後悔するのはこういう時だ。