「んっ……ちょっと離して…」
「もう少し我慢して。
良い子だから…」
今私は隣人の佐々木さんに手で口を押さえられ、玄関先で押し倒されたままの格好です。
どうしてこんな状況なのか。
10分前の事ーー
ガチャ、と開けた瞬間、同時に隣の扉が開いた。
「おはよう、舞ちゃん。」
綺麗な顔で笑う彼に殺意が芽生える。
ぷいっと顔を背けると、あれ?ととぼけた声が聞こえた。
「無視?おーい。」
私はこの前彼にファーストキスを奪われたのだ。
「金輪際話しかけて来ないで下さい」
「なんで?」
「なんでって……!!」
勢い良く振り返った瞬間、彼の携帯が鳴った。
ピッと素早く携帯に出た彼は、もしもし?と不思議そうな顔で応答した。
「…え?今?なんでだよ、いきなり。
いや….今は……」
チラリと私を見たかと思うと焦った顔で
「学校だよ。呼ばれててさ。」
と嘘をついた。
最低、とそこから去ろうとすると、後ろからスピーカーから漏れた大きな声が聞こえた。
「分かった!
じゃあ今からあんたん家行くから本当かどうか確かめるわね。
あ、逃げても無駄よ。あと一分で着くから。」
そこで切られたらしい携帯を持ったまま、見た事ないくらい焦り出した。
「舞ちゃん!!
家の鍵貸して!」