それからすぐ、千鶴は無言で部屋を出ていった。
わたしもなにも言わなかった。
言えなかった。
口を手のひらで押さえて、縮こまっていた。
「お邪魔しました」
「こんな時間にひとりで大丈夫? 真っ暗よ」
「大丈夫です。家はすぐそばなので」
「あらそうなのー。今度は明るいうちに遊びにいらっしゃいね」
「はい、ありがとうございます」
千鶴とお母さんの会話が聞こえる。
ムカつくくらいの冷静な声音。
まるで、なにもなかったみたいな。
息を殺して耳を澄ませ。
玄関の扉が開閉する音がして、ほっと息を吐く。
「ひどい‥‥」
呟いたら、途端に涙が溢れてきた。
女の子が相手で、ディープで。
しかも、なんの感情もないキスだった。
酷いよ。
こんなものが、わたしのファーストキスになってしまうなんて――。
