気づかなかったけど。 わたしの左手には傷があった。 親指の付けの根の辺りに、擦りむいた痕がある。 たぶん、千鶴を受け止めて倒れたときに、床に擦ったんだ。 千鶴の色素の薄いくちびるから舌が覗いた。 「――」 目を奪われる。 赤い舌が。 赤く滲んだわたしの傷を、舐めた。 刹那、手が震える。 「――な、に?」 わたしが絞り出した声は、酷くかすれた。 千鶴はそれを嘲るように吐息だけで笑う。 舌が熱い。 手はあんなに冷たかったのに。