カンッ。
カンッ。
カンッ。
ああ、これはアパートの階段を上ってくる足音だ。
千鶴は顔を上げ、小説を閉じる。
足音に反応したようだった。
「やっと帰ってきたか」
そう小さな声で言うから、千鶴の家族なのかなと思った。
けれど正解は、お隣さんらしい。
隣の部屋の鍵が開き、ドアが開閉する音を確認して、千鶴が立ち上がる。
「どうしたの?」
訝しげに聞いたわたしに、千鶴はくちびるの端をわずかに上げてみせた。
そして、なんの説明もないまま。
千鶴は部屋の壁をドカドカと叩きはじめたのだった。
「ちょ、ちょっと?!」
「黙って見てろよ」
いやでも、絶対お隣さんに迷惑かかってるって!
