一瞬で周囲の空気を凍らせた千鶴は、目を細めて神崎を見る。
神崎は目を丸くしていた。
状況がうまく整理できていないのだ。
たぶん、昨日のわたしもあんな顔をしたんだろう。
「――で?」
千鶴が神崎の顔を覗きこんで言う。
「あ。え?」
神崎は動揺して身を引いた。
笑顔だけは必死にキープしようとしてるみたいだった。
「用があるから話しかけたんだろ。なんだよ?」
「いや、その、困ったことがあったら聞いてくれれば‥‥」
語尾がどんどん小さくなっていく。
なんだか可哀想だ。
千鶴の手が伸びて、神崎の頭をぽんぽんと軽く叩く。
子供を相手にしてるみたいに。
「ふーん。わざわざどーも」
「い、いや」
「優しいんだな、あんた」
その時、チャイムが鳴った。
授業が始まるのだ。
わたしは教科書を準備しながらふたりを見る。
神崎は顔を真っ赤にして、やはり机から教科書を出していて。
千鶴は白い肌のまま、窓の外をぼんやりと眺めていた。
