戦国の月の影


__シュッ、シュッ

私達は、森の中を駆ける。

上田の忍小屋まであと少しだ。

そんなとき、隣を駆けていた鈴が小声で何か伝えてきた。


『梓様、何者かが近づいてきています。』

『うん。私も感じた。』


この森の中程から、ずっと何者かが後を付けている。

だが、先程から急に速度を上げ近づいてきているのだ。

もし、敵国の忍で、忍小屋を知られたらたまったもんじゃない。

そっと、腰に提げていた袋から手裏剣を取りだし、袖口から苦無を構える。


『鈴、私が分身作るから、それと前を全力で先に行って。』

『了解しました!』


鈴が返事をしたのを確認して、指を絡め、印を結ぶ。

__分身の術。

気付かれないように入れ替わり、私は近くの木に身を隠す。

鈴は分身と共に、速度を上げ先に行く。

私の狙い通り、後を付けている奴は追い付こうともっと速度を上げる。

__相手の姿が見えた。

が、顔を黒い布で覆っていて目しか見えない。


(…ついでに捕らえて向こうの情報を聞き出そうかな。)


生け捕りを覚悟した。

奴が私の隠れる木の前を通り過ぎる。


__ザッ

奴の後ろから首に手を回し、苦無を突き付けて身動きを封じた。


「誰だっ?!」

捕らえた奴は男。声からして、まだ少年だ。

睨み付けているのがわかる。


「こっちの台詞よ。どこの者?」

「あれ?!梓様の声……」


私の名前を様付で読んだ……?

少年。忍。私の名前を様付。

もしかして……


「疾風?」

「そうです!僕です!」

手を緩めると、少年は布を自分で剥ぎ取る。

茶の髪で短髪、クセで両側ともはねている。

そして何より、鈴に似ている。


__鈴の双子の弟・風守疾風。


「びっくりした~!早く呼び止めれば良かったのに。」

「申し訳ありません。」