戦国の月の影


「幸村様、おはようございます。」


幸村様の屋敷の廊下ですれ違った。

片膝を付いて、臣下の礼をとる。


「梓か。おはよう。」


幸村様が優しく微笑んでくれる。

いつも誰にでも優しい幸村様。

文武両道の武士で、領民にも慕われている。


……やっぱり素敵な方だ。



「あ、そうだ。月影党に早くも妖退治をしてもらいたい。」

「は、はい!承りました!」


早速実戦か……腕がなるなぁ!

最近は戦らしい戦が無いせいか、鈍っている気がする。


「頼んだ。……佐助と仲良くな?」

「御意。」


そうだ……佐助とは仲直りしてないなぁ。

いくらなんでも、忍務は一緒にやるんだから、仲が悪いのはマズイ。

会って初っぱな口喧嘩をするつもりはなかった。

16歳になったワケで、口喧嘩なんてバカらしい。

(犬猿の仲は流石に終わらせなくちゃね。)

心の中で苦笑い。


「それじゃあ、俺はここで失礼するな。」


幸村様は後ろに控えていた小姓と共にその場を後にした。


「……ふぅ。じゃ早速、佐助を捜そうかな。」


て、言っても何処にいるか見当がつかない。

この時間なら、幸村様の屋敷にいるはずなのだが、まだ姿を見ていない。


__シュタっ


後ろに影が舞い降りる。


「梓様!おにぎり持ってきましたよ!」


元気のいい可愛らしい声。

鈴だ。


「ありがとう。ついでに佐助を見なかった?」

「忍頭なら、上田の忍小屋にいるって聞きましたよ。」

「上田の忍小屋……」


忍小屋と言うのは、忍が活動するのに拠点にする重要なもの。

その小屋には忍具や、忍秘伝の薬などがある。

大概は、山や森といった目立たないところにある。

上田の忍小屋も、森の中だ。


「鈴、おにぎり食べたら上田の忍小屋に行くよ!」

「はい。今日は色々移動がありますね。」


鈴が苦笑して言った。


「全くだよ!も~忙しい!!」


鈴が握ったおにぎりを縁側でほお張る。

程好い塩加減が嬉しい。


「美味しい!」

「ありがとうございます。けど、ゆっくり食べて下さい?」

「ご馳走さま。行くよっ」

「も~。ゆっくりって言ったばかりなのにぃ!」


鈴が頬を膨らませながら怒ってる様に見せた。

そんか鈴が可愛い。

私達は、慌ただしい朝食を終え、佐助の元へ急いだ。