Virus ―SHADOW's Story―

「よし!制圧完了だなー!」


陸は背伸びしながら呟いた。


「流石エルザさんですね。あっという間に制圧出来ましたね」


「ふふん。ざっとこんなもんよ♪」


流架に褒められたエルザは上機嫌でそう返した。


その時だった。


「くっ…まさか…私がこんな無様な……」


「!」


救助の為に来た増援部隊に抱えられながらアラン捜査官が出てきた。


「ご無事で何よりね。アラン」


エルザの言葉に鼻で笑いながらアランは言い返す。


「ふん。手柄を横取りできて満足か?女狐め」


「アンタが何をどう思おうが私は別にいいけど…他に言うことないわけ?」


「はっ…何もないな。くそ…だから新人捜査官の指揮官なんぞしたくなかったんだ。なんの役にもたたなーー」


そこまで言いかけた瞬間だった。


「がっ」


アランが呻き声をあげた。


「祐騎!!」


流架が祐騎の名を叫ぶ。


何故なら祐騎がアランの胸ぐらを掴んでいたからだ。


仮にも上官の胸ぐらをだ。


「貴、様…!黒崎 祐騎か…!」


「…今、なんつった?」


先程よりも低音な声で聞く祐騎。明らかに怒っているのは誰の目からも分かったが、アランはその雰囲気が読めていないのか言葉を続ける。


「ハァ?使えん奴等を使えんと言って何が悪い…?それより、誰の胸ぐらを掴んでる!流石は躾のされてない拾われた野良犬ってところか?野蛮で獰猛だな!」


「ッ…!」


獰猛な野良犬。


その言葉を聞いた流架の表情が悲しみで歪む。



「ちょっとアンタ…「真田長官も何故こんな野良犬を拾ったのか…理解に苦しむな。さっさと手を離さんか!」


エルザの言葉に耳は貸さずに言葉を続けたアラン。


「祐騎さん!手を離してください!」


抱えてきた捜査官も本望ではないが、上官に手をあげればそれなり罰せられる。


その事を気にして祐騎に離すように促した。


「祐騎さん!」


そして、もう一人の捜査官が祐騎の腕に手をかけた時だった。


「うわっ!」


「ぐっ!」


右手で胸ぐらを掴んだまま左手でその手を払い除けた。


その衝撃で捜査官は尻餅をつく。


「使えねぇ…だぁ?それはテメェのことだろうが」


「なん、だと?」


先程より眉間にしわを寄せそう言う祐騎にアランは胸ぐらを捕まれ苦しそうにしつつ、聞き返した。


「テメェは状況判断も出来ねぇのか?新人は経験があせぇんだよ。経験があせぇのは使えねぇとは違う。経験があせぇならあせぇなりにまず出来ることから始めるのが当たり前だろうが。なのになんだこの様は?ここの摘発なら2~3年キャリアがある奴等がやるべきだったんだ。そんなの野良犬の俺ですら分かるぜ?よっぽどテメェの頭には蛆が詰まってると見えるな」


「貴様誰に口をきいてーー「そういうとこが無能だって言ってるんだよ!ボケが!さっきのエルザさんの言葉の意味もわからねぇ、テメェのことしか考えられねぇ屑が!当たり前を説くのに上官もくそもあるかボケ!テメェのことしか考えられねぇガキみたいな奴を上官だと思いたくもねぇな!」

ハッキリとそう怒鳴り付ける祐騎に一瞬たじろぎを見せたアラン。


しかし、その雰囲気よりも頭に血が登っていたのか苦し紛れに嫌味を返す。



「っ…!野良犬の分際で…!」


「まだ犬っころ呼ばわりたぁ、よっぽどその脳みそ空っぽなご様子だな。もう一回言わなきゃ理解できねぇなら、もっかい言ってやろうか?アランさん? 」



「貴様ーー「あー!!もー!やーめーなーさーいー!!!」


「グアッ!」
「いてっ」


まだまだ続きそうなこの口論に痺れを切らしたエルザは2人にラリアットを食らわせた。


…もちろん胸ぐらを捕まれていたままのアランは祐騎の倍のダメージだったであろう。


「あー…久々に食らった…。相変わらずいってぇなぁ…」


「エルザ貴様…!首が折れたらどうしてくれる!?」


「アタシを無視して話をしてるからでしょ!」


頬を膨らませ怒るエルザ。


祐騎は納得がいかずに口を開いた。


「エルザさん。俺は自分で思ったことを言いました。…何か間違ったこと言いました?」


首を押さえつつ反論を試みる祐騎にエルザは「おだまり!」と一喝する。


「祐騎。アンタねぇ…上官に手をあげることがどれ程罰せられるか分かってやってんの?」


「別に俺はそんなのーー「わきまえろって言ってるの!」」


真剣な顔で祐騎を叱りつける。


「アンタの階級とアランの階級とでは違うのよ!所属は違えとも上官は上官!新人も見てるのよ!もっと考えて行動しなさいな!」


確かに腐っても上官。


秩序が乱れれば組織は簡単に崩壊する。


ピシャリと言うエルザの言葉にアランはうんうんと頷いていた。


「こんなお馬鹿さんのためにアンタが罰せられるなんて馬鹿みたいなことやめなさい!それはアタシの仕事でしょ!」


「おい!!」


うんうんと頷いていたアランはそのエルザの言葉に反論した。


「…すみません、エルザさん。以後気を付けます」



そして、素直に頭を下げる祐騎。そんな祐騎に「それでいいのよ」と誉めるエルザにアランの怒りは最高潮に達した。


「どいつもこいつも…!貴様ら目にものを言わせてやーーがっ!」



怒声を浴びせてたアランはいきなりおかしな声をあげた。


その理由はエルザがアランの腕をつかみ、見事な一本背負いを決めていたから。


その早業に誰もが唖然とする。


「く…エルザ貴様…!」


「これは立派な暴力事件だぞ!」と言おうとしたアランだったが、その言葉を言う前にエルザの中段蹴りが頬を掠めた。


その蹴りはアランの顔の真横の壁に当たった。ダンッ!という大きな音に言葉がでない。


「…アラン。アンタ…いい加減にしなさいよ…?」


「!」


普段よりも明らかに低い声に、流石のアランも、思わずビクリと反応する。


「勘違いすんじゃないわよ、坊や。私はね…祐騎が乱暴にアンタに、言った事を怒ってるじゃないのよ。…アンタみたいに任務が遂行できないおバカさんのために…わざわざ秩序を乱す行為や刑罰を受けるような発言はやめなさいと言っただけなの。アンタは任務を失敗した。そんなアンタがね…優秀だと自己満足するんじゃないわよ…?任務を遂行できないおバカさんに指導するのが私の役目なのよね。だから…そのお高いお鼻が曲がるが嫌なら…大人しくしてなさいな…?」


そう言うエルザの顔の恐ろしいこと…。


アランもその気迫に「くっ…」と呻くだけで言葉にならなかった。


「や、やっぱりエルザさんはこえーな…」


「そうですね…」


唖然として呟く陸に、同意する草鹿であった。