Virus ―SHADOW's Story―

「危なかったー…」


その頃、危機一髪を救われた流架が呟いた。


「あいつアランより全然使えるな。しかし、後方が不注意過ぎるぞ、流架」


辺りを確認しながら祐騎は厳しく答える。


「だって~…」


「ったく、いつまでも心配の絶えない奴め」


「う~」


「とにかく入り口の制圧は完了だ。中に入って中も制圧するぞ。裏口から陸たちもきてるだろうしな」


「その前にそこに倒れてる奴等の安否確認が先だが」と倒れていた捜査員に歩み寄る。


「そうだ!大丈夫!?」


負傷した捜査員に流架も歩み寄って声をかけた。


「うぅ…」


「良かった!息がある!しっかり!!応援に来たよ!」


抱き抱えると倒れていた捜査員が目を開けた。


見たところ擦り傷と腕に銃弾を何発か受けていたが大きな怪我はなく、首のところに火傷の跡があるのをみると電撃が飛ぶタイプのスタンガンで気絶させられていただけのようだ。


「よかった…!命に別状はないみたい」


安堵の表情を浮かべた流架が言った。


「エルザさん。負傷者全員命に別状はなさそうだ。悪いが死人が出る前に中を制圧してくるからここに置いていくから後は任せた」


既に通信機でエルザに連絡をとっていた祐騎が負傷者を壁にもたれかけながら報告していた。


「了解★中は頼んだわよ!」


「了解」



通信機をしまい、ハンドガンに持ち変えた祐騎は扉の取っ手を持った。


「流架。準備はいいか?」


ハンドガンを構えながら、祐騎と同じように藤田を端に寄せて銃を2丁持っていた流架に尋ねる。


「もちろん。いつでもいいよ」


「中に入ったら俺が陽動役をする。いくらエルザさんでも内部に入れば後衛はすぐに出来ないだろうからな。援護頼んだぞ」


「ラジャッ」


流架が返事をしたのと同時に扉を開ける。

すぐに銃を構えて体制を整える。


中はあちこちにSDの制服を着ている人物たちが血を流して倒れている。


その少し先、奥の部屋から銃声が轟いた。

その声に2人は同時に奥へ走る。


「うらぁぁ!!」

「このっ!!」
「ひっ…!こ、こんなの無理だぁ…!」


奥の食堂では銃撃戦が行われていた。


数にしてSD捜査員が10名弱、マフィアたちは20名強いた。


その回りにはマフィア側の人間は倒れておらず、SD捜査員だけが倒れていた。


SDの新米捜査員たちはパニックになっておるのか上手く銃を当てられておらず、マフィアたちに圧倒されていた。


「おい!新手がいたぞ!!」


祐騎たちに気付いたマフィアの数人がすぐに銃口をそちらに向けた。


「流架!」


チラリと流架を見る祐騎。


黙って頷くのを確認した瞬間、祐騎は素早くマフィアたちの懐に入っていった。


そこから、先程と同じように祐騎が体術やナイフで接近戦、流架が援護射撃を行いものの10分で形勢逆転した。


「なっ、こいつら新米捜査員じゃねぇ!」
「増援を呼べ!数ならこっちが有利だ!!」


「ひっ…!お、終わりだ…!」


マフィアのその声に新米捜査員たちはすっかり腰が抜けてしまったように弱気な発言をした。


「目にものを言わせてやーーがっ!」


「!?」


マフィアの1人が変な声を出して倒れる。


「おい!?どうしーーガハッ!」


倒れたマフィアに気をとられてたもう一人も同じく変な声を出して宙を舞った。


「あ…」


新米捜査員たちは呆けた顔でその光景を見ていた。


先程、増援を呼べと騒いでた2人は1人は流架に肩と足を同時に狙撃され倒れ、宙を舞ったもう1人は祐騎にラリアットを食らって地面に叩きつけられていたからだ。


その時間僅か5秒。

流架の狙撃で聞こえた銃声は、彼等の耳では1つだけであった。


ドサリ床に倒れたマフィア達をよそに、祐騎は大声で叫んだ。


「うろたえるな!!お前らは自分で決めてここに入ったはずだ!!なのに何初歩的なとこで躓いている!!!本来の目的を忘れるな!!」


その怒声に、新米捜査員達は我に返ったかのように目を瞬かせた。


その瞬間反対側の扉から裏口からの制圧が完了した陸と草鹿が入ってきた。


「お前らはどんな任務を受けた!?どんなことがあってもその任務を怠るな!!」


「あ…」
「俺らは…」


「我々は負けてない!!例え人数が少なくとも…諦めなければ結果が変わる!!うろたえて状況判断を行えなくなるほど愚かなことはない!!もし!俺の言葉に少しでも感化された奴がいるなら…任務を続行しろ!!」


その言葉に、新米捜査員たちは少しずつ立ち上がっていく。


「あの人は…祐騎さんだ」
「狙撃の腕が上位に入ってる流架さんもいる…」
「2人でこれだけやれるなら…俺らにもできるはずだ…」


互いに話し合う新米捜査員の様子を見た祐騎はもう一度叫んだ。


「これからもこの道を進むと考えてるなら!負傷したものは各場所で倒れてる負傷者の介護を、残りのものは俺らについてこい!!一気にケリをつけるぞ!!!」


「やれる…この人たちとなら…!」
「よ、よし!やるぞ!!」
「おぉー!!!」


先程まで負け腰だった新米捜査員達だったが祐騎の言葉に一気にモチベーションが上がり士気を上げた。


「摘発では済まなくなった。この建物を制圧する!行くぞ!!」


「おぉー!!!」


士気が上がった新米捜査員たちは各々の役割を理解しつつ、行動に写った。


「なーにが自分には…だよな。相変わらずこーゆーところは才能あるよなぁ、あいつ」


陸は感心したように呟いた。


負け腰だった新米捜査員たちの士気を上げ、アランに変わって指揮をする姿は若干21歳の若者には見えないほど、堂々とし凛としていた。


「やっぱり…姐さんは凄い…!」


その指揮をする姿に草鹿は尊敬の眼差しで祐騎を見つめていた。


こうして、新米捜査員たちの力もあり、それから30分後この建物は完全に制圧された。


重傷者こそ出たが、1人の犠牲者も出さずに制圧は完了された。


民間人に至っては怪我人1人も出すことがなかった。


祐騎たちが導入されて1時間以内の出来事であった。