Virus ―SHADOW's Story―

「マジすか!?スゲーじゃん!」


隣にいた陸が祐騎の背中を叩く。


「えぇ!?こんな仏頂面の祐騎にやらせるのぉ!?」


エルザは嘘!?というかのように言った。


「いや…そんな、俺には…」


驚きが隠せないのか、いつものような堂々とした態度ではなくうろたえたようにぼそぼそと呟く祐騎。


「適任だと思うがね」


肘をつけ、前に屈むように身を乗り出した真田が微笑しながら答えた。


「スゴいなぁ、姉さん!長官から適任なんて言われるなんて!!」


草鹿も尊敬しているようなキラキラした笑顔で祐騎を見た。


「…?」


しかし、祐騎の表情は固いままだ。


その事に気付いた流架が、祐騎の様子をじっと見ていた。


「しかし…俺はまだ21です。指揮官をというなら…エルザさんが適任だと思いますけど…」


「そーですよ、長官!流石に若すぎると思いますけどぉ?」


祐騎の意見に同意したように頷くエルザ。


そう。


祐騎は落ち着いているとはいえ、若干21歳。


今までは指揮官を行うのはエルザのように年長者で経歴が長い捜査官であった。


祐騎は3年前にここに来たばかり。


経歴が長いわけでもなかった。


「年齢や経歴を求めてるのではないんだよ。私が求めているのは…技術だ。だが、初めは不安だと思うから優秀なエルザにサポートをお願いしたいんだ。私は君を高く評価しているのだよ」


鋭く光る眼光が祐騎をとらえる。


「まぁ、それは分かりますけどねぇ…」


エルザがそう呟いた時であった。


「失礼致します!長官!大変です!!」


ガチャ!と慌ててきたのか乱暴に扉を開けた別の捜査官が部屋に転がるように入ってきた。


「どうした?ノックもせずに騒々しいぞ」



「申し訳ございません!しかし、この近くで麻薬の売買をしていた組織の調査、摘発の最中に…抗争が勃発しまして!このままでは民間人も巻き込まれてしまうということで、増援の要請が!」



「!!」

その場にいた全員が一気に仕事モードに切り替わる。


「ロンドンのマフィアの件か…」


「そうなんです!一刻も早く増援を…!」


「エルザ、陸、祐騎、流架、草鹿!すぐに現場に向かえ!民間人に被害が及ぶ前に制圧せよ!」


先程までの優男風の表情は消え、険しい表情になった真田が命令を下す。


「はっ!」


全員が敬礼をし、走り去る。


「詳しく状況を聞かせろ!」


祐騎がその捜査官に鋭く聞く。


「この場所から北にある屋敷内で応戦中です!こちらは20名の捜査官で応戦しているのですが…相手は50名強です!銃も使われています!!」



「ちょっと!あのマフィア相手に20名しか派遣しなかったの!?」


装備を確認しつつ、エルザも厳しく追求する。


「も、申し訳ございません…。我々はあくまで摘発のみかと思い…ーー「指揮官は?」」


「えっ?」


銃の装弾を行いながら被せるように聞いてきた祐騎にきょとんとした様子で聞き返す捜査官。


彼は新米捜査官であった。


その為、その質問の真意に気付けずに聞き返した。


「だから指揮官は誰だ!?」


怒鳴り付けるように祐騎が強く聞いた。


「あ…ア…アラン指揮官で、す…」


その気迫に脅えたように身を縮めながら答える。


「アランさんか…」


「あのお馬鹿さん…何考えてるんだか!」


アラン捜査官は、優秀な捜査官であったが、少々自意識過剰でかなりの自信家であった。


今は新米捜査官の指揮官を任せられていた彼だが、栄光を手にいれたい彼にとっては任務で功績を残したいと言う野心があり、今の役職は気に入らなかったものであろう。


「20名で摘発できれば優秀だと認められるってか?ふざけやがって」


陸が吐き捨てるように呟いた。


「きっと新米の捜査官が大半だよね。アランさんが指揮をとってる部隊だから」


新米捜査官の仕事にしてはいくらなんでも、重すぎる任務であった。


そのマフィアの組織は各地に支部を作るほど大きな組織であり、ましては今回突入した場所はこの辺りの支部で1番大きな支部であった。


新米捜査官であるために、的確な判断は不可能であり同時にどれだけ危険かの認識も出来ない。


先程の祐騎の質問、声色、雰囲気を読み取り切れなかった彼のように。


「あの野郎…いつかやるとは思ってたけどな」


「早くしないと…全滅してしまう…!」


草鹿が心配そうに呟いた。


「とにかく急ぐぞ!手遅れになる前に!」

祐騎の言葉に頷く4人。


「とりあえず私が指揮官をするわ!あの屋敷は何度か見てるし!」


「よろしくお願いします!エルザさん!」


「任せときなさい!」


そして、6人はその目的の建物の数十メートルまで着き、簡単に作戦を確認した。


「入り口には見張りが2名ね」


スコープで入り口を確認したエルザが呟いた。


「そっちはどー?」


エルザのその言葉に屋根の上にいた祐騎、流架が飛び降りてくる。


「高い塀で全ては見れませんでしたが…。入り口付近では5~6名しか確認できませんでした」


「中に居る仲間たちを襲ってるんだろうな。入り口付近にも…何人か倒れてる。息があればいいが…腹とかから血が流れてなかったから致命傷になるような怪我はしてなさそうです」


口に煙草をくわえた祐騎が答えた。


その時、無線から陸と草鹿の声が聞こえた。



「こちら、青葉、草鹿チーム。裏口には2名の見張り、入り口付近には人影は確認できなかったッス」


「ただ血の跡がスゴいです。仲間たちのじゃなければいいんですが…」


「ふぅん…。了解。それでは作戦を確認するわ。草鹿と陸はそのまま裏口から制圧して。仲間達の安全第一で行動してね」


「了解ッス」
「分かりました」


「私たち4人は正面突破よ。祐騎、流架で陽動して。私は後衛で援護するわ」


「新米くんは援護射撃得意かしら?」


ライフルを構えたエルザが尋ねる。


「えっ、あ、陽動よりは自信あります」


「OK。じゃあ、新米くんは私と援護射撃よ。大体片付けたら屋敷内に潜入して、一気に頭を叩くわよ」


「了解」


「了解です!」


「これより前方建物の制圧を行う!人命救助と民間人に被害を出さないようにすることが先決!!GO!!!」


「「了解!!」」


エルザの掛け声ともに4人が一気に動き出す。


「し、しかし…たった5人で…」


新米捜査官はまだ不安そうであった。


20名でと言ってたのに…制圧等できるのだろうか?と疑問に思っているのであろう。



「ふふ、新米くん。本当の作戦ってものを見せてあげるわ。精々お勉強するのね」


新米捜査官の方は見ずにエルザはそう言った。


その瞬間、正面の2人は正面玄関を蹴破り突入した。


それと同時に裏口からも突入が行われる。

祐騎達に気付いたマフィア達は銃を構える。



「こいつらまだいやがったか!!」
「やっちまえ!!! 」


2人に向けられている銃口は6。


「危ない!」


明らかに不利な状況に新米捜査官は思わず叫ぶ。


しかし、新米捜査官の彼は目の当たりにすることとなる。


この5人のキャリアと知識、行動力の高さを。


一気に発砲されようとしていた銃を手繰るマフィア達に流架が閃光手榴弾を投げつける。


「うわぁ!!」


全員に視界が一気に白だけとなる。


「なんだ!?」
「前がみえねぇ!!」
「畜生!どこにいやがる!?」


彼らが閃光手榴弾を浴びて3秒。


視界が覆われたのは2秒であった。


しかし、その時間に次の行動に移っていた。


「ここだ」


「!?」



後ろから聞こえる祐騎の声に振り向く間もなく、その後頭部に強烈な蹴りが入った。


「がっ…!!」


ふらつくマフィアの一員が倒れる前に足にナイフを刺し、更に顎に後ろ蹴りを食らわせた。


ドサリと顎に蹴りを入れられた衝撃で脳震盪を起こしたマフィアは倒れる。


そこまで時間にして10秒以内。


休む間もなく今度は流架が祐騎の、後ろにいたマフィアの足を銃で撃ち抜いた。


「ぎゃあ!?」


その隣にいたマフィアの太ももをエルザのライフル弾が、貫いた。


「なっ…!」


その2人が目の前にいる祐騎の姿をとらえる前に、祐騎が素早く腹めがけて蹴りを入れた。


その間に流架は1番体格が良いマフィアの腕と両足を撃ち抜き、肘内を食らわせた。


残り1人となったとき、流架の、後ろに最後の1人が立ちはだかり、流架を捕らえようと両腕を大きく広げた瞬間、銃声が轟その両腕を同時にとらえた。



「いってぇぇ!!!」


騒ぐマフィアにアッパーをかました流架が後衛班を見ると、撃ち抜いたのはあの新米捜査官だった。



「あっ、当たった…両腕に…」



「ふふん。やるじゃない、坊や♪」


驚愕している新米捜査員にエルザはからかうようにそうそう言った。


「いい?後衛というのは今みたいな陽動で命を張ってる仲間を後ろから守るのが仕事なの。それが、後衛部隊。陽動で動いてる彼らがいなければ…私達は何も出来ないのよ」


「!」


先程のからかうような声色から一変し、真剣な声に新米捜査員はエルザを見つめた。