Virus ―SHADOW's Story―

「実はルーマニアの支部である施設の視察を頼んだんだが…悲鳴と共に連絡が途切れたんだ」


その言葉に一気に緊張感が走る。


悲鳴と共に…


どう考えてもその捜査官の命は消えている。


「何のために視察に向かわせたんですか?」


陸が聞き返すと更に鋭い眼光になった真田が答える。


「その施設は…遺伝子の研究を特化して行っていたのだが…。そこの社員の家族からコールが入った。…息子が帰ってこないと」


「それは…」


「…人体実験の可能性がある…ということか」


顔が青ざめている草鹿に被せるように祐騎が呟いた。


「でも、一人からのコールならそれ以外の可能性も出るんじゃないの?」


エルザがそう言うと「もちろん、初めはそれ以外の可能性を疑ったよ」と真田が答えた。


「しかし、その他にもコールが何件か寄せられた。そして、人体実験の可能性があることの信憑性が上がった理由は…うちの有能な堀北捜査官が挙げたリストだった。以前から調べていた危険生物実験のち関係者リストの中にその施設名があったんだ」


「堀北さんの調査なら…」


「ほぼ間違えはないよね」


流架の言葉に真田は頷いた。


「そういえば堀北さんの調査内容…極秘だって言うことで詳しく聞いたことなかったんですが…。堀北さんは何を調べているんですか?」


草鹿の言葉に深く息を吸いながら目をつむる真田。


こういった仕草をするときは重要な話をするときだった。


それを知っていたメンバーは黙って真田が口を開くのを待った。

時間にしてほんの数秒。しかし、メンバーの緊張感が高ぶるのには充分すぎる時間であった。


やがて深く吸った息を吐きながら目を開けた真田は口を開いた。


「堀北捜査官は…2年前にあったとある研究所爆発事件の指揮官をしていた。その時に…彼はあり得ない光景を目の当たりにしたんだ。爆発により辺りの生物が死滅し、生き物の焼ける匂いが立ち込めていたその現場に…動く影を見たんだ。それは…もちろん人ではなかったが、地球上で見たことのないまるでエイリアンの様な…最早、化物としか言えない生き物が全身黒こげになりながら歩いていた光景だった」


「これがその時に彼が撮った写真だ」と手元にあった写真を机の上に出す。


「これは…!!」
「……」
「何これ…!?」


その写真を見た3人は驚愕し、裕騎、流架はその姿を見て険しい表情を浮かべる。


そこに写っていたのは真っ黒焦げになり原型が分からないほどの大火傷を負いながらも立っている本当に映画に出てきそうな地球外生命体のような化け物であった。


「それだけではない。堀北捜査官は襲われかけたそうだ。すぐに体に銃を発砲したが…すぐに絶命しなかったそうだ。体に6発、頭に2発…そのくらい撃ってやっと倒れたと言っていた」


「計8発の銃弾で…やっと倒れる生き物なんて…」


「そう。この地球上にはあり得ない生き物だ」


「それで…その怪物は?」


「調査をするために一度ヘリに戻り、現場に戻った時には既にその怪物は居なくなってたそうだ」


真田は祐騎の問いに答えながら深く椅子に寄りかかった。

「生きていた…?」


「いや、あり得ないだろう。万全な状態だったのなら未だしも…体には大火傷を負っていて、弱ってはいただろう」


「そうなるとぉ…」


「何者かが連れ去った…」


唇を触りながら答えようとしたエルザに変わって、陸がぼそりと呟く。


「そういうことだろうな。それを境に…堀北捜査官はその研究所で何が行われていたのかを捜索するようになった。そして、どうやら生物実験を行い…生き物の姿形を変えていたことが浮上した」


「何のために…」


「バイオテロでも起こそうとしたんだろうな」


顔色が優れない草鹿の問いに祐騎が答えた。


「バイオテロなら、細菌を使うことが多いと思われてたけど…動物の遺伝子操作を行って兵士を襲わせたり、一般市民を襲わせるなら目に見えない恐怖よりも確実に恐怖を与えられていいってことね」


ペロリとリップで濡れた唇を舐めるエルザ。


彼女が言うことは的を得ていた様子だった。


「その通りだ。そして、目に見える分…自分達に及ぶ被害も最小限に抑えられる」


「なるほど…。その関係施設の視察した直後にやられたというわけか」


「そう。だから、新たに捜査チームを結成することにした。そのチームに…君たちを入れたいと思う」


5人一人一人を見ながら真田はそう言った。


「そして、そのチームの指揮官を…祐騎にやって貰おうと思う」


「えっ…?」


真田のその一言に祐騎は驚いたように聞き返した。