スイカをかたずけ、戻ってきた山南と、稽古をさぼる総司とともに庭を眺めていると、山南が思い出したようにいった
「そう言えば、勝太さんと土方君にはいったんですけどね、もうすぐ、私と同門の、藤堂君という人が、この試衛館にくるといっていました」
「その人、どんな人?」
すると、山南は遠くを見つめて、目を細めた
「例えるなら…小さな向日葵のような少年ですかね」
山南さんの、"向日葵"という言葉に、ドキッとした
そう言えば、私の本当の名前は向日葵だった
自分でも、忘れていた
でも、私は"向日葵"のときより、"鈴"の生活のほうが好きだ
向日葵の名は、私の心にしまっておこう
「その人、強いんですか?」
私が一人の世界にはいっているとき、突然総司が笑顔でいった
それに、山南は笑顔でこたえる
「ええ…小柄ですけど、剣の腕は、本物ですよ」
「そっかぁ…楽しみだな」
そう、総司は笑顔で言うと、「よいしょ」と立ち上がった
「じゃあ、もうそろそろ戻るよ…じゃあね、山南さん、鈴檎」
山南は総司の背中を見つめると、たちあがった
「では、私もこれで」
そう言って、どこかへ行ってしまった
一人、庭を亡霊の如く見つめる
否、本当に亡霊だが
「はやくこないかなー向日葵少年」