「鈴檎、ちょっと座ろうか」
「うん」
わたし達は、近くの石段に座った
はらりはらりと、真っ白な雪が降ってきた
「鈴檎、雪だね」
「うん」
雪なんか、ちっとも見ないで俯いているわたしに、ふっと微笑む
「ねぇ、鈴檎。顔をあげてごらん」
私はゆっくりと顔をあげて、総司をみる
すると、総司は優しく笑ってくれた
私は、すっと顔をあげる
空からは、はらはら雪が落ちて、枯れた木の上にのっかる
花なんて、ひとつもない
「ねえ、総。花なんて、一つもないじゃない」
私がいうと、総司は、「たしかにね」といった
「でも、死んでしまったわけじゃない」
「へ?」
私が言うと、総司は枯れ木を見つめた
「また春がきたら、ちゃんと綺麗な花を見せてくれるでしょ?」
「うん」
すると、総司はぎゅっと私をだきしめた
「鈴檎は、死んでなんかいないよ。ちゃんと、俺たちと今を生きているんだよ」
「でも、私は!」
総司は、私を抱きしめる力を強めた
「違う!自分の志を忘れて、なんのために生きているのかを忘れて、誰の心からも忘れられたとき、初めて人は死ぬんだよ。鈴檎の魂は、こうしてちゃんと、生きてる。だれも、鈴檎のこと、忘れてなんかない。」
やめてよ
「でも」
やめてってば
「私がいなくても、この国は回ってく!私がいなくても、困る人はいない!」
「俺が困る!」
突然大きな声を出した総司に、驚いて顔をあげた
いつも穏やかな総司が、今は怒ったような、悲しい顔をしていた
「鈴檎がいないと、俺の世界がとまる。もし、生きる意味がわからないなら、俺や、試衛館の皆のために生きて」
もう…
そんなこと言わないでよ
これじゃ、泣いてしまう
「総の……ばがぁぁぁぁ!!!」
瞳から溢れだしたモノは、止まることを知らない
総司は、また私を、ぎゅっと強く、強く抱きしめてくれる
いつの間に、こんなにおっきくなったんだろうね
みんなみんな、私なんかあっとゆうまに追い越して、どんどんどんどん先にいってしまう
私は、皆の背中について行くので精一杯で
それでも
何にもできない私を、こんなにも必要だと
そう言ってくれる人がいるのなら
私は死んでなんかいないのかもしれない
もう少し、皆と一緒に生きようと思った
空からは、柔らかい雪が、はらはら落ちてくる
それは、わたし達をそっと見守るように、二人の肩に落て消えていった