「誰かと思えば妃殿下ではないですか」

「いえサジェルバ様、婚姻はしていないのでまだ妃殿下ではありませんよ」



頭上で交わされた会話に、私はぴきんっと固まった。

恐る恐る、ゆっくり顔を上げれば…



「やっと、お目覚めになられたのですな。
……いやはや、若い女性…それもこんなに可愛らしいお方に抱き付いていただけるなど、人生捨てたものではありませんなあ」

「何をおっしゃるのですか。殺しても死ななそうな顔をされて」

「ほっほっ、人生とは何が起きるか分からんからな。明日にも死ぬやもしれんぞ」

「いえ、貴方にかぎってそれはないでしょう」



たっぷりこしらえられた顎髭を撫で付けながら楽しげに話すおじいちゃん…もどき。

その少し後ろには辛辣な言葉を吐きまくるジュリエさん。



「きゃあああっ!」



私は勢いよく後ろに飛びのいた。
と思ったら…



「おっと、危ない」



ぽすっ


背中に軽い衝撃。

とっさに見上げれば、追いかけてきたのか息を切らせたリツィリアさんがいた。